師匠

高校出てすぐに土木関係で働いてまして。

そこは日本全国飛び回るような会社。

 

2年ほどで辞めてしまったのですが、すごく覚えています。


右も左も分からない僕は職人さんと常に行動してました。

 

 


仕事の師匠ってのはもちろんの事。プライベートの事や人間的な事も色々教えて
くれた方でした。

出張で旅館に泊まっても同じ部屋。


仕事が終わると師匠は旅館に一旦戻り、風呂に入ってから飲みに出かけたりする
ので僕はその間、師匠の仕事着を洗濯したりしなきゃなりませんでした。

下の者が先輩方の世話をするというかそういう世界。



その師匠。昭和も初めの頃の人間でしてこの業界に入る前はたいへんヤンチャし
てたらしく。


入れ墨もあるしかなりの暴れん坊だったみたいです。


どこかの組に所属してたんだけど、30過ぎた時に「このままではいかん。」と
思い、土木の世界に入ったみたいです。


組を抜けたので指の先っぽが無いんですよね。よく映画の世界とかである「指を
摘める」という儀式を行ったみたいです。


部屋で呑んでる時、珍しく酔っぱらった師匠が昔の事を話してくれました。




口調も普段から乱暴で怒るとアホみたいに怖いんですが、普段は面倒見のいいお
っちゃん。


僕も最初は怖かったんですが、こちらが間違った事しない限りは怒られない。


…まぁ、それでも若かったのでそれなりに怒られたりしましたが。



よく言われたのが「男なら筋を通せ」でした。


仕事の事で教わった事はあまりなかったような気がします。

昔ながらの職人さんだったので「見て覚えろ」的な感じだったんでしょう。


それよりも「男とは」「人間とは」みたいな事の方をよく聞かされました。







ある年の冬。


東北に出張してた時に起った事件。


クリスマスも間近に迫った丁度今頃の事でした。

 

 

出張中は ほぼ毎日師匠は飲みに行ったりパチンコに行ってたので相部屋の僕は
師匠の洗濯とか部屋の掃除さえやってれば後はわりかし自由。

師匠は深夜に戻るのでその前に寝てましたし。


ところがですよ。


ある日。出張先で豪雨が起きまして。外に出れないくらい。


師匠もさすがに「今日は止めとくか。」つって旅館の前にある酒屋で大量に注文
して出前させたんです。


まさか部屋で呑まないよなぁ。って思ってたら


「おい、たまにはお前も飲め!!」


いや、師匠 ぼく未成年ですやん。

そもそもイヤだよ(笑)大部屋で他の誰かと飲めよ。




言えないです。適当な事言って断ろうと思ったら


「早く座れ。」ドスの聞いた声。


ごねたら怒るんで。速攻正座。


「かしこまらんでいい。足崩せ。ホラ。」


師匠は缶ビールを僕に渡してくれました。


缶ビールを握る師匠の左手の薬指の先っぽがない。


怖えよ(笑)


(今日は覚悟決めよう)


「いただきます!」



それから拷問のような時間でした。


師匠は現場を任されてて、その日元々 仕事の段取りが上手く行ってない。とい
う理由でご機嫌斜め。


ご機嫌フリーフォールかな言うくらい機嫌がよろしくない。



酒もすすむすすむ。絶好調。そのまま寝ろ。酔いつぶれて寝ろ!







でも こ、こいつ さ、さ酒が強いんだなぁ。(山下清風)






それに年も離れてるから話が合わない事 山の如し。





「おい、もうクリスマスやな。お前彼女はおるんか。」



「あ、はい。一応は…。」



「そうか。セックスするんか。」



なんちゅう質問やねん。



「そうです…ね。クリスマスですし。」


なんちゅう返しやねん俺も。



んなもん季節問わずやるわい!



「そうか…。」

いや、なんの納得やねん!!




「おい、手品みせてやろうか。」

どんな流れやねん。



「あ、いいで…お願いします!」


師匠は両手を僕の前に広げる。


そしてゆっくりとグーの形にする。


一気にパーの形に広げ一言。


「わしの薬指ど~こだ!!おい消えたぞ!!」



…。







元々ねぇよ!!


ど~こだ!じゃねぇよ!

 

お前がケジメ付けたとこにあんだろよ!!




コンマ何秒かの沈黙。



何か言わなきゃ、何か言わなきゃ と思い 出た僕の言葉が



「さ、サンタクロースが持って来てくれますよ。」



んなバカな!!


サンタのプレゼントの中身が指の先っぽて!!


師匠はバカ笑いしてくれました。


一緒に笑いました。


答え間違えたら殺されるんちゃうかな。くらいの緊張感でしたね。

 

師匠、まだ元気かなぁ。

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