哀愁1

少し切ない、ある男性とのお話。



MDウォークマンってありましたよね。


今の若い子らは知らないでしょうけど。

画期的でしたよね。


ipodが出てきてMDの時代も終わりを迎えようとした頃の話。



飲み会の帰り。終電で帰ってたんです。季節は12月半ばでしたか。



今でも鮮明に覚えています。


車内誰もいない。僕一人。


ほろ酔い気分+電車の揺れでなんだか心地よい。


ジャケットの内ポケットにMD忍ばせて、音楽聞く事にする。


今の気分はそうだな。バラードで。



お気に入りの曲のイントロが僕の気分を落ち着かせる。


今日はぐっすり眠れそうだ。



ゆっくりと走る電車の窓に広がる少し寂しい夜景を目で追いながら


(今年も終わるなぁ。)


なんて柄にもなく思ってしまう。



誰もいない電車内。


師走の慌ただしい空気からかけ離れたようなこの空間にも酔ってたのかもしれない。



今はまだ大丈夫だけど、このままずっと電車にいたら眠ってしまいそうだな。


バラードの曲はサビをちょうど過ぎた所。



もうすぐ一つ目の駅に到着する。


車内アナウンスがそれを伝える。



他の車両には何人か乗っていたのであろうけど、僕の座ってる車両は完全に一人。


まるで僕だけにアナウンスしてるよう。



少し飲み過ぎたかな。




停車し、扉が開くと冷たい風が吹き込んでくる。


それすらも今は気持ちいい。



チラリと見た外の景色には少しミゾレ交じり雨が降ってるようだった。


その時。



息を少し切らしながらギリギリに乗り込んで来た一人の男性。



「よかった。間に合った。」

独り言にしては大きすぎるボリュームで男が額の汗を拭った。

 

 

乗り込んで来た一人の男性。



軽く車内を見渡す。



その姿を何とも無しに眺めてたら僕と目が合って。



何だか嬉しそうにしてる。老人も少し酔ってるようでした。


寒さもあってか鼻の先は真っ赤。



ガラガラの車内で僕の隣に座る。



(なんだか気持ち悪いな)と思った刹那、老人が口を開く。



「何を聴かれてるんですか?」



MDの音量はそこまで上げてなかったので老人の声はハッキリと聞こえました。



「えと…。まぁ最近の流行りの奴です。」


「ほぉ。」



まともに相手したからなのか老人にっこり微笑んで。


上品そうな方なんですよ。そして少しお洒落な。


ハンチング帽被ってまして。



赤いフレームの眼鏡した老人。



季節柄もあってか何だかサンタクロースのようなね。




そのサンタは続けて話します。


「私ね。今日ipodを買いに出かけたんです。でもよく分からないから電機屋をはしごしてね(笑)もう足が棒のようですよ。」


手の甲を口に近づけて笑うしぐさも何だか上品。





「でもこんな老人でしょ?店員もひどいもんで。私にMDとか勧めてくるんです。酷いとこはカセットウォークマンとかどうですか?って、バカにするんじゃないよって(笑)だから今日は諦めて友人と飲んでたんです。電車乗ってたらお兄さんが音楽聞いてるようでしたのでつい声を掛けてしまいました。ごめんなさいね。」



サンタは一通り話し終えるとペットボトルの水を一口。



今、僕が聴いてるのはipodだと思ってるんだ。MDなのになぁ。



まぁいい。駅まで10分そこら。可愛い老人の話し相手にでもなってやろう。




「カセットウォークマン勧めるなんてひどい話ですね。」


MDの音量を少し下げてサンタに同情にも似た声を出す。



「フフフ。そうでしょ?でもまぁ。仕方ないかもしれませんね。今時こんな老人がipodなんて買わないんでしょう。でもね?私結構家でパソコンとかもするんでそれなりに扱えると思うんだけどなぁ。」



宙を見つめるサンタは少し悲しそう。




店員とのやり取りを思い出し悔しくなったのか、突き出した唇の横顔が何だか少年のようだった。

 

 

続く。

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